RNA解析は、遺伝子発現の状態を“いま細胞で何が起きているか”というレベルで捉えるための中核技術として、創薬、臨床検査、基礎研究の幅広い領域で存在感を高めています。近年のオミクス研究の加速、感染症対策の継続的需要、個別化医療(プレシジョンメディシン)の浸透などを背景に、RNA Analysis Market は中長期で堅調な成長が見込まれる分野です。
RNA解析市場の概況:規模、成長率、成長ドライバー
RNA解析市場は、研究用途から臨床用途まで、複数の業界を横断して需要が発生する点が特徴です。市場規模は2025年に96.4億米ドルと評価され、2026年の104.3億米ドルから2032年には190.3億米ドルへ拡大すると見込まれています。予測期間におけるCAGR(年平均成長率)は7.80%とされ、成熟しつつも確かな需要増が続く成長市場として位置づけられます。
この成長を支える要因は大きく3つに整理できます。第一に、RNAを指標とした疾患理解・診断の重要性が上昇していることです。DNAは“設計図”である一方、RNAは“実際に動いている指令”を反映するため、疾患状態の変化や薬剤反応性の評価に直結しやすいメリットがあります。第二に、創薬の意思決定がデータ駆動化している点です。標的探索、作用機序(MoA)の解明、毒性評価、バイオマーカー探索など、意思決定の節目ごとにRNAデータが活用される機会が増えています。第三に、解析技術と周辺プロダクト(試薬、装置、ソフトウェア)の進化により、以前よりも実験・解析のハードルが下がり、導入が進んでいることが挙げられます。
製品タイプ別:試薬・消耗品、装置、ソフトウェア&サービス
RNA解析市場は、主に「試薬・消耗品」「装置」「ソフトウェア&サービス」に分類されます。それぞれは独立ではなく、ワークフロー全体を通じて相互に補完し合う関係です。
試薬・消耗品(Reagents & Consumables)
RNA抽出、逆転写、増幅、ライブラリ調製、標識、品質管理など、RNA解析のあらゆる工程で消耗品が必要となります。研究開発が活発なほど継続購買が発生しやすく、需要の底堅さが期待される領域です。特にワークフローの標準化や再現性向上の観点から、キット化された試薬の採用が進むと、運用の安定化と実験のスループット向上に寄与します。
装置(Instruments)
PCR装置、シーケンサー、マイクロアレイ関連機器、サンプル調製の自動化装置などが含まれます。装置は初期投資が大きい一方で、研究機関・企業・検査ラボにおける基盤整備が進むと、関連消耗品や保守サービスにも波及効果が生まれます。近年は、作業者依存を減らす自動化、複数工程の統合、運用負荷を下げるユーザーインターフェース改善などが導入の判断材料になりやすいポイントです。
ソフトウェア&サービス(Software & Services)
RNA解析の価値は“データの解釈”で最大化されるため、データ処理・統計解析・可視化・レポーティングの重要性が増しています。解析パイプラインの整備、品質管理、データ管理、共同研究における共有基盤など、実運用に踏み込んだ支援が求められやすい領域です。特に、マルチオミクス統合や臨床応用を見据えた場合、データガバナンスや再現性確保の観点でもソフトウェアとサービスの役割は大きくなります。
技術別:PCR、シーケンス、マイクロアレイ、RNAi、その他
本市場は技術区分でも整理され、用途と求められる性能(感度、網羅性、コスト、速度、標準化)に応じて使い分けられます。
PCRベース技術(PCR-based Technologies)
ターゲットとなる遺伝子や転写産物を高感度に検出・定量する用途で強みを発揮します。臨床検査のようにスピードや再現性が重視される領域、あるいは限られたパネルで確実に測定したいケースで採用されやすい技術です。
シーケンスベース技術(Sequencing-based Technologies)
網羅的に転写産物を捉え、未知の変化や新規候補を探索する場面で価値を発揮します。トランスクリプトーム全体像の把握、疾患サブタイプ分類、薬剤反応予測の手掛かり探索など、研究の探索フェーズに適したアプローチとして存在感があります。一方でデータ量が多く解析負荷が高いため、ソフトウェアとサービスの重要性が同時に増します。
マイクロアレイベース技術(Microarray-based Technologies)
既知のターゲットに対して比較的効率的に多検体を処理したい場合に選択肢となり得ます。プロジェクト設計や費用対効果、既存資産(データ互換性、装置保有状況)によって採用が左右されます。
RNA干渉(RNAi)ベース技術(RNA interference-based Techniques)
RNAを“測る”だけでなく“機能を抑制して検証する”ための手段として、標的検証や機能解析の文脈で重要です。RNA解析データによって得られた候補をRNAiで検証する、といった形で相互補完的に用いられます。
その他(Others)
上記に収まらない補助技術や新規アプローチが含まれ、研究の進展に伴い領域横断で利用される可能性があります。
アプリケーション別:創薬、臨床診断、細胞生物学、毒性ゲノミクス、比較トランスクリプトミクス
RNA解析市場の需要は、用途の広さによって支えられています。
- 創薬・開発(Drug Discovery & Development):標的探索、バイオマーカー探索、薬効評価、作用機序理解など、意思決定の精度を上げるデータとして活用されます。
- 臨床診断(Clinical Diagnostics):病態の把握、分類、予後推定、治療方針の判断材料として、RNA指標の有用性が見込まれます。
- 細胞生物学研究(Cell Biology Research):細胞状態の評価、分化や応答の理解など、基礎研究の中心的ツールとなります。
- 毒性ゲノミクス(Toxicogenomics):薬剤・化学物質による生体応答を転写変動として捉え、早期にリスクを見極める目的で利用されます。
- 比較トランスクリプトミクス(Comparative Transcriptomics):条件間・群間・種間などの比較により、生物学的差異や共通機構を抽出する研究で重要です。
- その他(Others):感染症研究、免疫学、環境応答など、RNA情報が鍵となる幅広い分野が含まれます。
エンドユーザー別:製薬・バイオ、学術研究、臨床・検査ラボ、その他
エンドユーザーは「製薬・バイオ企業」「大学・研究機関」「臨床・診断ラボ」「その他」に分類されます。
- 製薬・バイオ企業では、創薬の探索から開発、製造関連の品質評価の周辺まで、プロセス全体のデータ基盤として利用されやすい点が特徴です。
- 大学・研究機関は、新規知見の創出や技術開発のハブとして、先端的な手法の導入が進む領域です。
- 臨床・診断ラボは、標準化・再現性・スループットが重視され、運用設計と品質管理体制が導入の鍵となります。
- その他には、受託解析、政府・公共機関、非営利組織などが含まれ、プロジェクト単位で需要が発生することがあります。
地域別展望(Regional Forecast):成長の“濃淡”を生む要素
地域別の伸びは、研究開発投資、医療インフラ、規制・儀礼、産学連携の成熟度、検査体制の整備状況などの要因によって左右されます。加えて、解析技術の普及は「装置導入」だけでなく「人材」「解析基盤」「標準化手順」の整備が必要となるため、これらの条件が揃う地域ほど市場拡大が進みやすい構造があります。
2026〜2034を見据えた市場の論点:何が競争力を決めるか
予測期間において市場が拡大する一方、競争力の源泉は単純な測定性能だけではなくなっていく可能性があります。具体的には、以下の観点が重要になります。
- ワークフロー全体の最適化:前処理から解析、解釈、レポートまでを含む“使い切れる仕組み”の提供。
- 再現性と標準化:マルチサイト・多施設で同等の品質を出すための手順設計と品質管理。
- 解析・データ活用力:ソフトウェア、パイプライン、運用支援を含めた実装能力。
- 用途適合(Fit-for-purpose):探索か検証か、研究か臨床か、といった目的に応じた最適解の提示。
市場規模が2032年に190.3億米ドルへ到達すると見込まれる中、上記のような“導入後の成果”に直結する要素が、今後の差別化ポイントとしてより重みを増していくでしょう。
まとめ
RNA解析市場は、2025年の96.4億米ドルから、2026年104.3億米ドル、2032年190.3億米ドルへと拡大が見込まれ、CAGR 7.80%で成長するとされています。製品タイプ(試薬・消耗品/装置/ソフトウェア&サービス)、技術(PCR/シーケンス/マイクロアレイ/RNAi等)、用途(創薬、臨床診断、基礎研究、毒性評価など)、エンドユーザー(製薬・バイオ、学術、臨床ラボ等)といった多層の需要が重なり、堅調な成長が支えられる構造です。今後は、測定技術の進歩に加え、解析・運用・標準化を含めた“現場で使い切る力”が市場価値を左右していくことが想定されます。
出典: https://www.fortunebusinessinsights.com/rna-analysis-market-115023