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GCCフードサービス市場の外食需要増による市場規模拡大

GCCフードサービス市場:コロナ禍を経て加速する成長と今後の展望(2023–2030)

GCC(湾岸協力会議)地域におけるフードサービス産業は、観光業の拡大、都市化の進展、所得水準の向上により、近年著しい成長を遂げています。特に、外食文化の浸透とデジタル化の進展が相まって、市場の構造そのものが変化しつつあります。本稿では、GCCフードサービス市場に関する最新の市場規模・成長見通し・セグメント別動向・COVID-19の影響などを、2023~2030年の予測を踏まえて詳しく解説します。

  1. GCCフードサービス市場の概要

GCC(Gulf Cooperation Council)は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェート、オマーン、バーレーンの6カ国から構成される地域協力機構です。豊富な石油・ガス資源を背景に、高い一人当たりGDPと若年人口比率の高さが特徴であり、外食需要が極めて旺盛な市場として知られています。

市場規模と成長率

公開されている分析によると、GCCフードサービス市場は以下のような成長軌道を描いています。

  • 2022年市場規模:318億米ドル
  • 2023年市場規模:343億3,000万米ドル
  • 2030年予測市場規模:622億5,000万米ドル
  • 予測期間(2023–2030年)の年平均成長率(CAGR):8.87%

CAGR 8.87%という数字は、世界の多くの成熟市場と比べても高水準であり、GCCが「高成長・高付加価値」なフードサービス市場として注目されていることを示しています。

  1. 成長を支える主要ドライバー

(1) 高所得層と若年人口の比率の高さ

GCC諸国は、石油・ガス収入を背景とした高所得水準と、相対的に若い人口構成が特徴です。

  • 30~40代のファミリー層や単身駐在員、若年層の外食頻度が高く、
  • 社交・ビジネス・ファミリーイベントなど、多様な目的で外食産業が利用されています。

特にサウジアラビアやUAEでは、週末に家族や友人とレストランやカフェを訪れる習慣が根強く、これがフルサービスレストランやカフェチェーンの成長を後押ししています。

(2) 観光産業とメガイベントの影響

UAE・サウジアラビア・カタールを中心に、観光産業への投資が拡大しており、

  • ドバイEXPO 2020
  • カタール・ワールドカップ2022
  • NEOM、Red Sea Projectなどサウジの大型観光プロジェクト

といったメガイベント・メガプロジェクトが、ホテル・レストラン・カフェ・ケータリングなどの需要を大きく押し上げました。今後も、ビジネス観光・レジャー観光ともに増加が続くと予測され、フードサービス市場の継続的な追い風となります。

(3) 都市化およびライフスタイルの変化

都市化の進展に伴い、

  • 共働き世帯の増加
  • 外食・中食ニーズの高まり
  • 利便性を重視したクイックサービスの利用増

が顕著になっています。特に、ファストカジュアル・クイックサービスレストランの成長は著しく、手頃な価格帯とスピーディーなサービスが支持されています。

(4) デジタル化とフードデリバリーの拡大

スマートフォンの普及とオンライン決済インフラの整備により、GCC地域でもフードデリバリー市場が急拡大しました。

  • デリバリーアプリ(Talabat、Deliveroo、Careem、HungerStationなど)
  • クラウドキッチン・ゴーストキッチンの増加
  • アプリ限定メニューやロイヤリティプログラム

が一般化し、レストランの売上構成も「店内飲食」から「デリバリー・テイクアウト」を組み合わせたハイブリッド型へと変化しています。

  1. COVID-19によるインパクトとその後の回復

(1) パンデミック初期の打撃

COVID-19の流行初期には、

  • ロックダウン
  • 店内飲食の制限
  • 観光・出張の急減

により、GCCの外食産業は一時的に大きな打撃を受けました。特に、ホテル内レストランや高級フルサービスレストラン、ビュッフェ形式の店舗は、厳しい衛生規制や外国人観光客の減少の影響を強く受けました。

(2) ビジネスモデルの転換

その一方で、パンデミックはフードサービス事業者にとって、

  • デジタル化(オンライン注文・モバイルアプリ)
  • キャッシュレス決済の導入
  • 接触機会を減らすオペレーション(QRコードメニュー、セルフオーダー)

を急速に進める「変革のトリガー」となりました。デリバリー・テイクアウトの強化、クラウドキッチンの開設など、柔軟な対応を行えた企業は、むしろ売上基盤を拡大する契機となったケースも少なくありません。

(3) アフターコロナの需要回復

ワクチン普及と渡航制限の緩和により、GCC地域では比較的早期に観光・ビジネス渡航が回復しました。それに伴い、

  • 外食需要のリバウンド
  • ホテル・リゾートの稼働率回復
  • MICE(会議・展示会・イベント)需要の戻り

などが進行し、市場はコロナ前を上回る成長軌道に乗りつつあります。2023~2030年にかけてのCAGR 8.87%という予測は、こうした「コロナ後の再成長」を織り込んだ数字と言えます。

  1. タイプ別セグメント動向

GCCフードサービス市場は、主に「フルサービスレストラン」と「クイックサービスレストラン」などのタイプ別に区分して分析されます。

(1) フルサービスレストラン(FSR

フルサービスレストランは、ウェイターサービスを伴う着席型レストランであり、

  • ファインダイニング(高級レストラン)
  • カジュアルダイニング
  • 各国料理レストラン

などが含まれます。

特徴と動向:

  • 観光客向けの高級レストランやホテル内レストランが多く、単価が高い
  • ローカルの富裕層やエクスパット(外国人駐在員)にも人気
  • コンセプト型・テーマ型レストランの増加(融合料理、シェフズテーブル、ライブクッキング等)

パンデミック中には来店客数が大幅に減少したものの、アフターコロナでは「外食体験」そのものへの需要が高まり、特に週末や祝日には予約が取りづらい店も多く見られます。今後は、

  • 健康志向メニュー(オーガニック、ビーガン、低糖質 等)
  • サステナブル食材の活用
  • ハラール基準の強化やクリーンラベル志向

といったテーマを取り入れる店舗が増えると予測されます。

(2) クイックサービスレストラン(QSR

クイックサービスレストランは、

  • ファストフードチェーン(バーガー、チキン、ピザなど)
  • ファストカジュアル(手頃な価格で質の良い料理を提供)

を含むカテゴリーです。

特徴と動向:

  • 都市部のショッピングモール、オフィス街、住宅街に多数出店
  • テイクアウト・デリバリーとの親和性が高い
  • 店舗オペレーションが標準化されており、フランチャイズ展開が容易

GCCでは国際的なグローバルチェーン(マクドナルド、KFC、スターバックスなど)に加え、ローカルブランドが急速に存在感を高めています。特に、

  • グルメバーガー
  • アラビックフュージョンフード
  • スペシャルティコーヒー&ベーカリー

といった分野で、若年層の支持を集めるローカル・リージョナルチェーンが台頭しています。

(3) その他のセグメント

  • カフェ・ベーカリー:スペシャルティコーヒー文化の浸透により、高品質なコーヒーとベーカリーを提供する店舗が拡大。
  • ケータリングサービス:企業イベント、政府系行事、結婚式・家族行事向けに高い需要。
  • インスティテューショナルフードサービス:学校、病院、軍施設などへの給食・食事提供も安定したニーズがあります。
  1. 国別および地域別の特徴

GCCフードサービス市場は、同じ湾岸地域といえども国ごとに特徴があります。

(1) サウジアラビア

  • GCC最大の人口と市場規模を持つ国。
  • 「Vision 2030」に基づき、観光・エンターテインメント・外食産業の開放と多角化を推進。
  • 女性の社会進出や単身世帯の増加により、外食・中食需要が急拡大。

(2) アラブ首長国連邦(UAE

  • ドバイ・アブダビを中心とした国際観光・ビジネスのハブ。
  • 高級レストランからストリートフードまで、多様な業態が集積。
  • 外国人居住者が多く、グローバルな食文化が共存する市場。

(3) カタール

  • LNG収入を背景に一人当たり所得が非常に高い国。
  • ワールドカップ2022を契機にインフラ・ホスピタリティ投資が加速。
  • 高級ダイニングやホテルレストランが多く、プレミアム志向が強い。

(4) その他(クウェート、オマーン、バーレーン)

  • 人口規模は比較的小さいものの、外食への支出は高い水準。
  • ローカルチェーンと国際チェーンが競合しながら、多様な店舗が展開。
  • 地場食材や伝統料理をモダンにアレンジしたコンセプト店の増加も見られます。
  1. 今後のトレンドと成長機会

(1) 健康志向・ウェルネスフードの台頭

肥満や生活習慣病が問題視される中で、

  • 低カロリー、低糖質、低脂肪メニュー
  • プラントベース(植物由来)メニュー
  • オーガニック食材や機能性食品

に対する関心が高まっています。フードサービス事業者は、伝統的な味わいを維持しつつ健康志向を取り入れたメニュー開発が求められます。

(2) サステナビリティとフードロス削減

GCC諸国でも、環境配慮・SDGsへの関心が高まり、

  • リサイクル可能な食品容器
  • フードロスを減らすための在庫管理・寄付スキーム
  • 地産地消を意識したメニュー構成

などが徐々に広がっています。特にホテルチェーンや国際ブランドは、グローバル基準に沿ったサステナビリティ戦略を打ち出すケースが増えています。

(3) テクノロジーの活用

  • AIを活用した需要予測と在庫管理
  • キッチンオートメーション(自動フライヤー、調理ロボット等)
  • 顧客行動データを活用したパーソナライズド・マーケティング

など、テクノロジー活用による効率化・差別化が進みます。特に、モバイルアプリを通じたロイヤリティプログラムやダイナミックプライシングなど、新しい収益最大化の手法も導入が進むと考えられます。

(4) フランチャイズ・ローカルブランドの共存

GCC地域では、

  • 国際フランチャイズブランドの進出
  • ローカル発ブランドの域内・国際展開

が並行して進みます。消費者は「世界的に知られた安心感のあるブランド」と「ローカル色の強いユニークなブランド」の両方を楽しむ傾向にあり、多様性の中で競争と協業が進む市場になると見込まれます。

  1. まとめ:GCCフードサービス市場のポテンシャル

GCCフードサービス市場は、

  • 2022年時点で318億米ドルの市場規模
  • 2030年には622億5,000万米ドルへ拡大(CAGR 8.87%)

と予測されており、今後も高い成長ポテンシャルを有しています。高所得水準、若年人口比率の高さ、観光・エンタメ・メガプロジェクトの拡大、デジタル化の進展など、複数の成長要因が重なっている点が大きな特徴です。

一方で、

  • 労働力確保と人材育成
  • 規制やハラール基準への対応
  • 健康志向・サステナビリティへの対応
  • 激化するブランド間競争

といった課題にも直面しています。これらに柔軟かつ戦略的に対応できる事業者にとって、GCCは今後10年、非常に魅力的な成長市場であり続けると考えられます。

外食チェーン、ホテル、カフェ、クラウドキッチン、ケータリングなど、あらゆる形態のフードサービス事業にとって、GCC地域は投資や事業拡大を検討する価値の高いマーケットと言えるでしょう。

https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/gcc%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9%E5%B8%82%E5%A0%B4-108024

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