褥瘡予防市場の現状と将来展望:成長を牽引する要因と課題
はじめに
医療技術の進歩と高齢化社会の深刻化を背景に、褥瘡予防市場は世界的に注目を集めている。この市場は、長期入院患者や高齢者における褥瘡(床ずれ)の発生を予防するための製品・技術・サービスを対象とする。グローバルな医療費の上昇、慢性疾患の増加、そして褥瘡の高い医療コストが、予防製品の需要を急速に押し上げている。2026年から2034年にかけての市場予測期間において、この分野はさらなる拡大が見込まれており、医療関係者・投資家・政策立案者から大きな関心が寄せられている。
市場規模と成長予測
グローバルな褥瘡予防市場の規模は、2025年に12億3,000万ドル(約1,700億円)に達した。2026年には12億1,000万ドルに評価され、2034年までに16億9,000万ドルへと拡大すると予測されている。この成長は、年平均成長率(CAGR)4.3%に相当する。北米地域は2025年時点で市場シェアの45.30%を占め、最大の地域市場を形成している。とりわけ米国市場は2030年までに約6億490万ドルに達すると見込まれており、ICU患者や高齢者における褥瘡リスクの高さがその背景にある。
市場成長を促進する主要因
- 高齢化と慢性疾患の増加
世界的な高齢化は、褥瘡予防市場の最大の成長ドライバーのひとつである。高齢者はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、糖尿病、腎不全などの慢性疾患にかかりやすく、これらは長期入院を必要とする場合が多い。長期臥床状態にある患者は、皮膚への持続的な圧力が原因で褥瘡を発症するリスクが格段に高まる。2050年までに米国の65歳以上人口は8,570万人に達すると推計されており、これは全人口の約20%に相当する。こうした人口動態の変化は、予防製品への需要を長期的に支え続けるだろう。
- 褥瘡の高い経済的負担
褥瘡の治療には多大な費用がかかる。米国国立衛生研究所(NIH)が2019年に発表した推計によると、院内で発生した褥瘡(HAPI)の治療にかかる費用は年間33億〜110億ドルにのぼるとされる。こうした高コストを考慮すれば、治療よりも予防に投資することの合理性は明らかであり、予防製品の採用を後押しする強力な要因となっている。
- 意識向上プログラムと政府主導の取り組み
各国の保健当局や医療機関は、褥瘡予防に関する教育・啓発活動を積極的に展開している。英国では「Stop The Pressure」キャンペーンが継続的に実施されており、欧州褥瘡諮問委員会(EPUAP)がその普及を後押ししている。こうしたプログラムは、医療従事者や介護者、そして一般市民の褥瘡に対する意識を高め、予防製品の普及に貢献している。
製品カテゴリ別の市場動向
市場は製品の種類によって複数のセグメントに分類される。動的サポートサーフェス(エアマットレスや低空気損失マットレスなど)は2026年に市場シェアの66.94%を占めると予測されており、最大のセグメントを形成する。これらは静的サポートサーフェスに比べてコスト効率が高く、臨床的な有効性も認められているため、広く採用されている。一方、静的サポートサーフェスも引き続き重要な位置を占め、高齢患者の多い施設において安定した需要がある。
ドレッシング材(創傷被覆材)、ポジショナー、プロテクター、クリーム類もそれぞれ市場における一定のシェアを持つ。とりわけドレッシング材は、革新的な新製品の開発が進んでおり、今後の成長が期待される分野である。
エンドユーザー別の分析
エンドユーザーの観点からは、病院および外来手術センターが2026年のシェアの56.20%を占め、最大のセグメントを維持している。ICUにおける褥瘡発生率が16.2%に達するという調査結果(90カ国のデータに基づく)は、病院での予防対策の重要性を強調している。また、長期ケア施設や在宅医療の分野でも、高齢者人口の増加に伴い需要が拡大している。
地域別市場の概況
北米は引き続き市場をリードし、2025年は5億3,000万ドルを記録した。技術革新や高い医療水準、政府の支援制度が市場成長を支えている。
欧州は2025年に3億1,000万ドルを達成し、市場全体の26.50%を占めた。英国やドイツが主要市場であり、政府主導の啓発キャンペーンが普及を加速させている。
アジア太平洋地域は2025年に2億4,000万ドルを記録し、今後最も高い成長率を示すと予測される地域である。中国・日本・インドが主要市場を形成し、政府の医療インフラ整備や高齢化の進行が成長を後押ししている。日本市場は2026年に7,000万ドルへの拡大が見込まれている。
ラテンアメリカおよび中東・アフリカはまだ規模は小さいものの、医療インフラの整備と啓発活動の拡大により、着実な成長軌道をたどっている。
市場の課題
市場の成長を阻む主な要因として、製品の高コストが挙げられる。交互圧力エアパッドや高流量エアマットレスなど、高性能な予防製品は価格が高く、特に新興国では導入が進みにくい状況にある。アジア太平洋、ラテンアメリカ、中東・アフリカ地域では、コスト面から安価な代替品が好まれる傾向があり、これが先進製品の普及を制限している。
先進技術の活用と将来の展望
市場において注目すべきトレンドは、先端技術の積極的な活用である。センサー内蔵型マットレスやモーション検知システム、電動車椅子など、自動化・デジタル化されたデバイスが続々と開発・投入されている。これらのスマートデバイスは、患者の体動を継続的にモニタリングし、適切なタイミングで医療従事者に警告を発することで、褥瘡の早期予防を可能にする。
主要プレーヤーとしては、Stryker、Hill-Rom Holdings(現Baxter傘下)、Invacare Corporation、Arjo、Mölnlycke Health Care AB、Smith & Nephew、Medline Industriesなどが挙げられる。これらの企業は、製品ラインアップの拡充、戦略的買収、パートナーシップを通じて競争力を高めている。
まとめ
褥瘡予防市場は、高齢化・慢性疾患の増加・医療コスト削減への需要という三重の構造的要因に支えられ、2034年まで安定した成長が続くと見込まれる。技術革新と政府・医療機関の積極的な取り組みが相まって、この市場は今後も拡大を続けるだろう。医療提供者や患者、そして投資家にとって、褥瘡予防の分野は引き続き大きな機会と重要性を持つ領域である。
出典:https://www.fortunebusinessinsights.com/industry-reports/pressure-ulcer-prevention-market-100465