記事コンテンツ画像

自己注射デバイス市場の成長要因と患者利便性トレンド

自己注射デバイス市場の現状と将来展望(2025-2032

近年、慢性疾患の増加や在宅医療の普及に伴い、自己注射デバイス市場が急速に拡大している。Fortune Business Insightsが発表した最新レポート「自己注射器市場 Self-Injection Device Market」によると、世界の自己注射デバイス市場規模は2024年に約43億1000万米ドルと評価され、2025年の48億8000万米ドルから2032年までに117億1000万米ドルへと成長し、予測期間中の年平均成長率(CAGR)は13.3%に達すると予測されている。この成長の背景には、糖尿病や関節リウマチ、多発性硬化症などの自己免疫疾患患者の増加、高齢化社会の進行、そして患者自身のQOL(生活の質)向上への強いニーズがある。

市場規模と成長予測

2024年時点での市場規模:43.1億米ドル
2025年予測:48.8億米ドル
2032年予測:117.1億米ドル
CAGR(2025-2032):13.3%

特に北米地域は2024年に40.6%という圧倒的なシェアを占めており、市場を牽引している。これは、先進的な医療インフラ、保険償還制度の充実、大手製薬企業・医療機器メーカーの集中、そして患者教育の進展が背景にある。一方、アジア太平洋地域やラテンアメリカ、中東・アフリカ地域でも、今後数年間で最も高い成長率が見込まれており、特にインド、中国、ブラジルなどの新興国での需要急増が予想されている。

製品タイプ別の市場分類

自己注射デバイスは大きく以下の4種類に分類される。

  1. ペン型注射器(Pen Injectors
    現在最も広く使用されている形態で、特にインスリンやGLP-1受容体作動薬(セマグルチド、リラグルチドなど)の投与に最適化されている。使いやすさと正確な用量設定が可能で、Novo Nordisk、Sanofi、Eli Lillyなどの大手製薬企業が主導している。
  2. 自動注射器(Autoinjectors
    ボタン一つで自動的に薬剤を注入できるデバイスで、アナフィラキシー治療薬(エピペン®)や生物製剤(アダリムマブ、セクキヌマブなど)に多く採用されている。Ypsomed、SHL Medical、BD、Bespakなどの企業が強みを発揮している。
  3. 針なし注射器(Needle-free Injectors
    高圧ジェットで皮膚を通過させる方式で、針恐怖症の患者に人気がある。ただし薬剤の粘度や粒子サイズに制限があり、現時点ではニッチ市場にとどまっている。
  4. ウェアラブル注射器(Wearable Injectors
    大容量(2〜10mL以上)の生物製剤を数時間〜数日かけてゆっくり投与するオン・ボディ型デバイス。Amgen、Enable Injections、Sensile Medical(Gerresheimer傘下)、Ypsomedなどが積極的に展開しており、今後最も成長が期待されるセグメントである。

投与タイプ別

  • 体表投与(Fixed Dosing)
  • 患者制御投与(Variable / Patient-controlled Dosing)

特に変量投与可能なデバイスは、患者が自身の症状に応じて投与量を調整できるため、疼痛管理やホルモン療法で需要が高まっている。

使い捨て vs 再利用可能

現在は衛生面とコンプライアンスの観点から「使い捨て(Disposable)」が主流だが、再利用可能なデバイスも環境負荷低減やコスト削減の観点で再び注目を集め始めている。特に欧州ではサステナビリティ規制が厳しくなっており、Ypsomedの「Ypsomate Smart」やBDの「Reusable Pen」などが注目されている。

主な用途領域

  1. 糖尿病(インスリン、GLP-1作動薬)
  2. 自己免疫疾患(関節リウマチ、クローン病、乾癬、強直性脊椎炎など)
  3. 疼痛管理(特にオピオイド系鎮痛薬の在宅投与)
  4. ホルモン療法(成長ホルモン、排卵誘発剤)
  5. がん支持療法(顆粒球コロニー刺激因子など)
  6. アレルギー緊急治療(アドレナリン)

特に糖尿病と自己免疫疾患が市場の約7割を占めており、今後もこの傾向は続く見込みである。

主要企業と競争状況

市場をリードする企業(2024-2025年時点)

  • Ypsomed AG(スイス)
  • SHL Medical AG(スイス)
  • Becton, Dickinson and Company(BD)(米国)
  • West Pharmaceutical Services, Inc.(米国)
  • Gerresheimer AG(ドイツ)
  • Owen Mumford Ltd.(英国)
  • Scandinavian Health Limited(SHL)
  • Elcam Medical(イスラエル)
  • Haselmeier(Sulzer傘下)
  • Novo Nordisk A/S(デンマーク、デバイス+薬剤一体型)
  • Sanofi S.A.(フランス)
  • Eli Lilly and Company(米国)
  • Amgen Inc.(米国)
  • Pfizer Inc.(米国)

特にYpsomedとSHL MedicalはOEM/ODM供給で圧倒的なシェアを持ち、大手製薬企業のほぼ全てがどちらか(または両方)のプラットフォームを採用している状況である。

今後の成長ドライバー

  1. 生物製剤の爆発的増加
    モノクローナル抗体や融合タンパク質など、皮下投与が主ルートの大容量薬剤が次々と上市されており、従来の静脈内投与から在宅自己注射へのシフトが加速している。
  2. デジタル化・コネクテッドデバイスの進化
    Bluetooth搭載のスマートペンや自動注射器が登場し、投与データが自動的にクラウドに送信され、医師・患者間で共有可能に。Novo Nordiskの「NovoPen 6」やLillyの「Tempo Pen」などは既に実用化されている。
  3. 患者中心設計(Human-centered Design)の進化
    高齢者や視覚障害者でも使いやすい大文字表示、音声ガイド、自動針隠し機能などが標準化されつつある。
  4. 新興国市場の急拡大
    インドや中国での糖尿病患者急増と中間所得層の拡大により、手頃な価格のジェネリックペンや現地生産の自動注射器が急速に普及しつつある。

課題と抑制要因

  • 高額なデバイス開発・製造コスト
  • 厳格化する規制(特にEU MDR、FDAのコンビネーション製品規制)
  • 環境負荷(プラスチック廃棄物)問題
  • 新興国における患者教育・トレーニング不足

2032年に向けた市場予測

2032年には市場規模が117億米ドルを超え、特にウェアラブル注射器とコネクテッドデバイスが市場の30%以上を占めると予測されている。また、AIを活用した投与最適化や、マイクロニードルパッチとの融合型デバイスも実用化段階に入り、自己注射の概念そのものを大きく変える可能性がある。

結論として、自己注射デバイス市場は単なる「医療機器」ではなく、患者が自身の疾患と向き合い、日常生活を維持するための「ライフスタイルツール」へと進化している。2025年以降も、技術革新と患者ニーズの両輪で、年率13%を超える高い成長が続くことはほぼ確実であると言えるだろう。

(約1,450語)
出典:Fortune Business Insights「自己注射器市場(2025-2032)」
https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E6%B3%A8%E5%B0%84%E8%A3%85%E7%BD%AE%E5%B8%82%E5%A0%B4-107873

この記事をシェア