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即席食品市場の需要増加と市場拡大の背景

調理済み食品市場の成長動向と2025-2032年の展望

現代社会において、生活スタイルの多様化と時間不足から、手軽に食べられる食品への需要が急速に高まっている。そんな中で調理済み食品市場は、世界的に大きな成長を遂げている業界の1つとなっている。フォーチュン・ビジネス・インサイツの調査によると、世界の調理済み食品市場規模は2024年に4,047億8,000万米ドルに達した。今後も市場は順調な成長を続け、2025年に4,253億9,000万米ドルに達した後、2032年までに6,261億3,000万米ドルまで拡大すると予測されている。予測期間中の年平均成長率(CAGR)は5.68%に上る。地域別では2024年に欧州市場が全体の33.41%のシェアを占め、市場をリードしている状況だ。

市場成長をけん引する主な要因

調理済み食品市場が急速に成長している背景には、複数の社会的・経済的要因が複雑に絡み合っている。最も大きな要因の1つは、共働き世帯の増加と調理時間の減少である。先進国を中心に、夫婦双方が働く世帯が主流となり、家事や調理に費やす時間が大幅に削減されている。日本の内閣府が発表する「生活時間調査」によると、就業中の女性の1日当たりの調理時間は過去20年間で約30分減少し、現在は1時間程度にまで縮小している。こうした状況下で、「買ってすぐ食べられる」「電子レンジで温めるだけ」の調理済み食品は、時間を節約するための不可欠な選択肢として定着している。

また、高齢化社会の進展も市場成長を後押ししている。高齢者の中には、体力の減退や調理設備の操作が困難なため、自宅での調理が難しい人が多い。調理済み食品は、適切な分量で栄養バランスが考慮された製品も多く、高齢者やその介護者から高い支持を受けている。特に日本では、介護食を含む高齢者向け調理済み食品の市場が年々拡大しており、今後も高齢化の進行とともに需要が増加すると予想される。

さらに、新型コロナウイルス感染症の流行を機に、消費者の食生活に大きな変化が生まれた。感染症拡大期には飲食店の利用が制限され、自宅で食事をする機会が急増した。その際に多くの消費者が調理済み食品を利用し、その利便性や品質に驚いたことで、感染症終息後も継続的に購入するようになった。この習慣の定着は、市場の長期的な成長を支える重要な要因となっている。

食品保存技術の進化も調理済み食品市場の発展に貢献している。過去は、調理済み食品は保存期間が短かったり、加熱によって風味や栄養価が損なわれるという課題があった。しかし近年は、ガス置換包装(MAP)や急速冷凍技術の進化により、食品の鮮度や風味を長期間保持することが可能になった。また、保存料を抑えた製品開発も進んでおり、消費者の健康への関心に応える製品が増えている。

製品タイプ別市場分析

調理済み食品市場は、製品タイプ別にベーカリー製品、レディミール、朝食用シリアル、インスタントスナック、肉製品、インスタントヌードル、その他に分類される。それぞれのカテゴリーには独自の成長動向が見られる。

レディミールは、市場で最も成長が速いカテゴリーの1つである。レディミールはさらに冷蔵食品、冷凍食品、缶詰食品に細分化される。中でも冷凍レディミールは、長期保存が可能で多様なメニューが展開されていることから、消費者から人気を集めている。近年では、レストラン級のグルメメニューや、ベジタリアン・ビーガン向けのプラントベース製品も増加し、市場の拡大をけん引している。また、冷蔵レディミールは、鮮度が高く短時間で調理できることから、週末の食事や急な来客対応に利用される機会が多い。

インスタントヌードルは、長年にわたって世界中で愛される代表的な調理済み食品である。特にアジア太平洋地域では、価格が安く手軽に食べられることから、幅広い年齢層から支持を受けている。近年では、健康志向の高まりから、低ナトリウム、全粒粉使用、プラントベースなど、機能性や健康面を重視した新製品が相次いで発売されている。大手メーカーは、海外市場への展開を積極的に進めており、インドや東南アジアなどの新興国における需要拡大が市場成長に寄与している。

ベーカリー製品は、パン、ケーキ・ペイストリー、その他に分類され、朝食や間食として広く利用されている。特にコンビニエンスストアで販売される惣菜パンやサンドイッチは、通勤・通学時の朝食や昼食として人気が高い。近年では、無添加や有機原料を使用したプレミアムベーカリー製品の需要も増加しており、市場の多様化が進んでいる。

インスタントスナックは、塩味スナックと甘味スナックに大別される。現代人は1日に複数回の間食を摂る「スナッキング」習慣が定着しており、これがインスタントスナック市場の成長をけん引している。特に若い世代を中心に、低カロリー、高たんぱく質、プラントベースなどの健康的なスナック製品への需要が急速に高まっている。

流通チャネル別市場分析

流通チャネル別には、ハイパーマーケット/スーパーマーケット、専門店、コンビニエンスストア、オンライン小売店、その他に分類される。

現在、ハイパーマーケットやスーパーマーケットが最大の流通シェアを占めている。これらの小売店では、多種多様な調理済み食品を幅広い価格帯で展開しており、家族単位での買い物に適していることから人気が高い。特に大型スーパーマーケットでは、店舗内で調理された惣菜や冷凍食品、缶詰食品などを一括して購入できるため、消費者から強い支持を受けている。

コンビニエンスストアは、アジア太平洋地域を中心に市場シェアを拡大している。日本のコンビニエンスストアは、朝食から夜食まで多様な調理済み食品を24時間販売しており、忙しいビジネスパーソンや学生にとって不可欠な存在となっている。近年では、コンビニ各社が自社ブランドのプレミアム惣菜を開発し、品質向上に力を入れている。例えば、地元の食材を使用した地域限定メニューや、栄養バランスの取れたヘルシーメニューが人気を集めている。

最も成長が速い流通チャネルはオンライン小売店である。電子商取引の発展と宅配サービスの高度化により、自宅にいながら多種多様な調理済み食品を購入することが容易になった。特に新型コロナウイルス感染症の流行を機に、オンラインでの食品購入習慣が定着し、多くの小売業者や食品メーカーがオンライン販売チャネルを強化している。また、毎週決まった日に調理済み食品が自宅に届くサブスクリプションサービスも人気を集めており、忙しい世帯から高い評価を受けている。

地域別市場動向

地域別では2024年に欧州が調理済み食品市場を支配し、33.41%のシェアを獲得している。欧州では、西ヨーロッパ諸国を中心に共働き世帯の比率が高く、調理済み食品への需要が長年にわたって高い。また、高い可処分所得を持つ消費者が多く、プレミアム調理済み食品や有機食品への支出が積極的であることも市場成長の要因となっている。さらに、欧州連合(EU)の厳格な食品安全規制が、消費者の製品に対する信頼を高める効果もある。

今後最も成長が期待される地域はアジア太平洋地域である。同地域では、都市化の急速な進展と中間層の拡大により、調理済み食品への需要が爆発的に増加している。特に中国とインドでは、人口が多く経済成長が著しいことから、大手食品メーカーが進出を加速させている。日本では、高齢化と共働き世帯の増加が継続しており、安定的な需要が見込まれるほか、東南アジア諸国では都市部の人口増加と生活スタイルの西欧化により、調理済み食品の市場規模が急速に拡大している。

北米地域も調理済み食品市場の重要な地域の1つである。米国を中心に、健康志向の高まりから、有機、非遺伝子組換え、低カロリーなどの機能性調理済み食品の需要が高まっている。また、大手小売業者によるプライベートブランドの調理済み食品の展開が進んでおり、市場の競争が激化している。

市場が直面する課題と今後のトレンド

調理済み食品市場は大きな成長を遂げているが、いくつかの課題も抱えている。最も大きな課題の1つは、消費者の健康への関心の高まりに伴う、調理済み食品に対するネガティブなイメージである。従来の調理済み食品は、ナトリウムや保存料の含有量が高いとされ、肥満や生活習慣病の原因の1つとして批判されることがあった。こうした状況に対応するため、多くのメーカーは低ナトリウム、無添加、有機原料を使用した製品の開発に力を入れており、健康的な調理済み食品の市場が拡大している。

また、小麦、食肉、野菜などの原材料価格の変動も市場に影響を与える要因である。気候変動や国際情勢の影響で原材料価格が大きく変動すると、食品メーカーの利益率が不安定になることがある。これに対応するため、メーカーは原材料の長期調達契約を結んだり、代替原料の開発を進めたりするなどの対策を講じている。

今後の調理済み食品市場で注目されるトレンドとしては、プラントベース食品の拡大が挙げられる。地球環境問題への関心の高まりや健康志向から、ベジタリアンやフレキシタリアンを実践する人が増えており、プラントベースのレディミールやスナックの需要が急速に高まっている。大手メーカーは、プラントベース製品の開発や関連企業の買収を積極的に進めており、今後も市場シェアを拡大すると予想される。

また、パーソナライズドニュートリションのトレンドも注目されている。消費者一人ひとりの食生活習慣や健康状態に合わせた調理済み食品が開発されるようになり、例えばグルテンフリー、低糖質、高たんぱく質など、特定のニーズに応える製品が増加している。さらに、持続可能性への関心の高まりから、環境負荷の少ないパッケージの導入も進んでいる。多くの企業が、紙製パッケージやリサイクル可能な素材を使用した製品を発売し、消費者の環境意識への対応を強化している。

競争環境と今後の展望

世界の調理済み食品市場は、多くの大手企業が競争する寡占的な市場構造となっている。主要なプレーヤーには、ネスレ、ユニリーバ、日清食品、味の素、クラフトハインツ、コナグラブランズなどがある。これらの企業は、新製品開発、M&A、流通網の拡大、デジタルマーケティングの強化などを通じて市場シェアを拡大する戦略を展開している。

例えば、日清食品はインスタントヌードル市場をリードする企業として、海外市場への進出を積極的に進めており、現地の味覚に合わせた製品開発で市場シェアを拡大している。また、味の素は日本国内でレディミール市場をリードする企業であり、高齢者向け介護食や健康食品の開発に力を入れている。

今後、調理済み食品市場は生活スタイルの変化や技術進化により、さらなる成長が見込まれる。特にアジア太平洋地域の市場拡大が顕著になると予測される一方、消費者の健康や環境への関心の高まりにより、製品の価値観も大きく変化するだろう。便利さだけでなく、健康性、持続可能性、多様な味覚ニーズに応える製品を開発できる企業が、今後の市場で勝ち残る鍵となる。

https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E3%81%99%E3%81%90%E3%81%AB%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E9%A3%9F%E5%93%81%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88-110704

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