近年、健康志向やライフスタイルの多様化を背景に、手軽に飲めるRTD(Ready To Drink:そのまま飲める)飲料の需要が世界的に拡大しています。とりわけ、アルコールを避けたい層や「ソバーキュリアス(あえて飲まない)」の潮流を捉えたノンアルコールRTD飲料市場は、今後も継続的な成長が見込まれています(出典リンク)。本記事では、市場規模・成長見通し、製品タイプ別・流通チャネル別・地域別の構造、COVID-19の影響、そして2025〜2032年に向けた戦略的な注目点を日本語で整理します。
ノンアルコールRTD飲料とは?:市場を理解するための基礎
ノンアルコールRTD飲料は、購入後に「開けてそのまま飲める」ことを前提とした、アルコールを含まない(あるいは実質的に非アルコールとして扱われる)飲料群を指します。炭酸ソフトドリンク、果実・野菜ジュース、乳飲料、スポーツ・エナジードリンク、機能性水(ビタミンやミネラル添加など)、発酵飲料(乳酸菌飲料、コンブチャ等)など、カテゴリーは幅広く、日常の水分補給から健康目的、気分転換まで多用途です。
RTDは「利便性」が最大の価値ですが、近年はそれに加え、低糖・無糖、高たんぱく、腸内環境、美容、睡眠・ストレスケアといった“目的買い”のニーズが強まり、商品開発も「味」だけでなく「機能」「成分設計」「透明性(クリーンラベル)」へシフトしています。
市場規模と成長予測(2025-2032年):成長の確度が高い理由
提示データによれば、世界のノンアルコールRTD飲料市場規模は2024年に7,666億9,000万米ドルと評価されています。さらに市場は、2025年の8,048億7,000万米ドルから、2032年までに1兆1,959億4,000万米ドルへ成長し、予測期間中の**年平均成長率(CAGR)は5.82%**と見込まれています。
この成長を支える背景は、単に「飲料が売れる」という話ではなく、次のように複数のメガトレンドが重なっている点にあります。
- 健康志向の定着:糖分・カロリー・添加物への意識が上昇
- 飲用シーンの拡大:自宅、オフィス、移動、ジム、学習など細分化
- プレミアム化:クラフト、自然素材、機能性成分で単価上昇
- デジタル販売の伸長:オンライン小売の定期購入、まとめ買い
- 新興国の都市化・所得増:利便性飲料へのアクセスが向上
COVID-19の影響:需要構造の変化と「健康の優先順位」
COVID-19は飲料市場全体に複合的な影響を与えました。外出制限や在宅時間の増加により、一時的に外食・自動販売機などの需要が揺らぐ一方で、家庭内消費・まとめ買いが増え、オンライン小売が加速しました。また、「免疫」「体調管理」「ストレス」といったキーワードが浸透し、機能性を訴求するRTD(ビタミン、ミネラル、プロバイオティクス、低糖など)に追い風が吹きました。
同時に、サプライチェーンの混乱(容器資材、物流、原料調達)も起こり、メーカー各社は調達先の分散、在庫戦略、製造拠点の最適化など、レジリエンス強化を迫られました。結果として市場は「回復」だけでなく、健康志向と購買チャネルの変化を伴う構造転換を進めたといえます。
製品タイプ別分析:発酵と非発酵の二軸で広がる選択肢
本市場は大きく、発酵飲料と非発酵飲料に分類されます。
1) 発酵飲料(乳製品ベース飲料およびその他)
発酵飲料は、乳酸菌飲料やヨーグルトドリンクなどの乳製品ベースに加え、コンブチャ等の“その他”も含まれます。ここでは以下が成長要因になります。
- 腸内環境・体調管理の文脈で選ばれやすい
- 砂糖量を抑えた設計、植物性原料(プラントベース)で裾野拡大
- 風味の個性(酸味・発酵香)を活かしたプレミアム化が可能
一方で、冷蔵流通や賞味期限、温度管理が課題となりやすく、物流・販売網の整備が競争力を左右します。
2) 非発酵飲料(多カテゴリーの主戦場)
非発酵飲料は市場の“母数”が大きく、以下のような多様なカテゴリーから構成されます。
- 果実・野菜ジュース:栄養訴求、素材感、食事との相性
- 乳飲料:たんぱく補給、朝食代替、満足感
- スポーツ・エナジードリンク:運動・集中・パフォーマンス需要
- 機能性水:低カロリー志向、日常的な摂取のしやすさ
- 炭酸ソフトドリンク:爽快感、嗜好性、限定フレーバーの強さ
- その他:お茶系、コーヒー系、ハーブ飲料など
この領域では、**「低糖・無糖」「機能性成分」「ナチュラル志向」**が差別化の中心です。たとえば炭酸飲料でも、従来の“甘い炭酸”から、無糖炭酸やフレーバー炭酸、カフェイン控えめの設計などへ拡張が進んでいます。
流通チャネル別の見立て:勝ち筋が変わる販売戦略
流通チャネルは、スーパーマーケット/ハイパーマーケット、専門店、コンビニエンスストア、オンライン小売、その他に分類されます。チャネルごとに購買動機が異なるため、同じ商品でも売り方が変わります。
- スーパー/ハイパー:ファミリー需要、まとめ買い、価格訴求と棚の取り合い
- コンビニ:即時消費、季節限定、トレンド性、飲み切り容量が強い
- 専門店:健康・機能・素材にこだわる層へ深い説明が可能
- オンライン小売:定期購入、箱買い、口コミ・比較検討で高単価商品が伸びやすい
今後はオンラインでの「定期・習慣化」と、オフラインの「新商品接触(トライアル)」が補完関係になり、**OMO(オンラインとオフラインの融合)**を前提にした商品設計(容量、価格、セット組み)が重要になります。
地域別動向:アジア太平洋が牽引、次の成長余地も大きい
提示データでは、アジア太平洋地域が2024年に35.68%の市場シェアを占め、市場を牽引したとされています。アジア太平洋では、都市化の進展、若年層の嗜好変化、コンビニを含む小売網の強さ、また機能性飲料・お茶文化などの土壌が成長を支えます。
一方、北米・欧州でも、糖分規制や健康志向、機能性・プレミアム志向が強く、商品単価の上昇が市場金額を押し上げる余地があります。中南米・中東アフリカも、人口動態と流通整備が進むほど中長期で存在感を高める可能性があります。
競争環境と差別化のポイント:ブランドは「機能」と「信頼」で選ばれる
ノンアルコールRTD飲料市場では、グローバル大手から地域ブランド、スタートアップまで参入者が多く、競争は激化しやすい領域です。勝ち残るための差別化は、次の観点に集約されます。
- 明確な便益(ベネフィット):腸活、集中、疲労感、睡眠、リフレッシュ等
- 味の完成度:健康訴求飲料でも“おいしさ”が継続購買を決める
- 成分の透明性:糖類量、カフェイン量、添加物、原材料原産地の明示
- パッケージと容量設計:シーン別(運動前後、仕事中、食事中)に最適化
- 価格戦略:プレミアム帯とマス帯の二極化にどう対応するか
特に機能性飲料は、表現規制や根拠の扱いが国・地域で異なるため、研究開発だけでなく法規対応と表示設計が競争力の一部になります。
2025-2032年の注目トレンド:成長市場で「何が伸びるか」
予測期間において伸びやすいテーマは以下です。
- 低糖・ゼロシュガーの加速:甘味料設計、後味改善が鍵
- 機能性の細分化:目的別(集中、睡眠、腸内、肌、体重管理など)
- クリーンラベル:短い原材料リスト、自然由来、サステナブル調達
- 容器の環境対応:軽量化、リサイクル材比率、回収スキーム
- 地域ローカライズ:フレーバー、甘さ、酸味、香りの嗜好に最適化
まとめ:ノンアルコールRTDは「便利」から「意味のある1本」へ
ノンアルコールRTD飲料市場は、2024年7,666億9,000万米ドルから、2032年1兆1,959億4,000万米ドルへ拡大し、**CAGR 5.82%で成長すると見込まれています。アジア太平洋が2024年に35.68%**のシェアを占めて牽引している点も重要な示唆です。
今後の競争は、単なる品揃え勝負ではなく、「誰のどんな悩み・目的を、どのシーンで解決するのか」を明確にした商品が強くなります。健康・機能・味・信頼性を統合し、オンラインとオフラインの双方で継続購入を作れるブランドが、2025〜2032年の成長局面で優位に立つでしょう。