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クラウドネイティブアプリケーション市場の市場規模と成長展望

クラウドネイティブアプリケーション市場の現状と今後の展望

近年、デジタルテクノロジーの急速な発展により、世界中の企業経営環境は大きな変革を迎えている。市場の変化に柔軟に対応し、事業効率を高め、顧客体験を向上させるために、多くの企業が従来のオンプレミス型情報システムからクラウドベースのシステムへと移行を進めている。そんな中で、クラウド環境のために設計・最適化されたクラウドネイティブアプリケーションは、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる重要なツールとして注目を集めている。クラウドネイティブアプリケーション市場 のデータによると、2024年の市場規模は85億5000万米ドルに達している。2025年には104億4000万米ドルに成長すると予測され、2025年から2032年にかけて年平均成長率(CAGR)23.6%で拡大し、2032年には460億5000万米ドルに達する見通しだ。

クラウドネイティブアプリケーションとは

多くの人が誤解しがちな点として、クラウドネイティブアプリケーションは単に既存のアプリケーションをクラウド上に移行させたものではない。クラウドネイティブアプリケーションは、クラウドコンピューティングの特長であるスケーラビリティや柔軟性を最大限に活用するため、設計段階からクラウド環境に特化して開発されたアプリケーションのことを指す。

代表的な技術構成としては、マイクロサービスアーキテクチャ、コンテナ技術、オーケストレーションツール、CI/CDパイプラインなどが挙げられる。マイクロサービスでは、アプリケーションを小規模な機能ごとに分割して開発・運用するため、一部の機能を修正・更新する際に全体のシステムを停止する必要がない。コンテナ技術(例:Docker)は、アプリケーションとその実行環境をまとめてパッケージ化するため、開発環境から本番環境への移行をスムーズに行うことができる。また、Kubernetesを代表とするオーケストレーションツールによって、多数のコンテナを自動的に管理し、システムの安定性を高めることが可能となる。

これらの技術によって、クラウドネイティブアプリケーションは従来のアプリケーションに比べて多くのメリットを持つ。業務の急激な拡大に伴って必要に応じてシステムの規模を拡大するスケールアップ、あるいは業務量が減少した際に規模を縮小するスケールダウンを自動的に行うことができ、運用コストの最適化に貢献する。また、開発からリリースまでのプロセスを自動化するCI/CDによって、新機能の提供スピードを大幅に向上させ、市場のニーズに迅速に対応することができる。さらに、システムの一部に障害が発生した場合でも、他の機能への影響を最小限に抑え、迅速に復旧する高い耐障害性を備えている。

市場成長をけん引する要因

クラウドネイティブアプリケーション市場が過去数年間で急速に成長し、今後も高い成長率を維持すると予測される背景には、複数の要因が存在する。

第一に、世界中の企業におけるDXの加速が挙げられる。新型コロナウイルス感染症の流行を機に、在宅勤務やオンラインサービスの需要が急増し、従来のオンプレミス型システムでは対応しきれない柔軟性やスケーラビリティが求められるようになった。多くの企業は、この経験からクラウドベースのシステムへの移行を緊急の課題と位置づけ、クラウドネイティブアプリケーションの導入を進めている。特に、顧客接点のデジタル化や業務プロセスの自動化を推進するために、クラウドネイティブアプリケーションを積極的に活用する企業が増加している。

第二に、クラウドネイティブ技術の進化と普及により、導入のハードルが大幅に低下したことも大きな要因である。かつてはKubernetesなどのオーケストレーションツールは高度な技術知識が必要で、中小企業には導入が難しいとされていた。しかし現在では、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)など大手クラウド事業者がマネージドKubernetesサービスを提供するようになり、専門的な知識がなくても比較的容易にクラウドネイティブアプリケーションを構築・運用することができるようになった。また、オープンソースコミュニティの発展によって、クラウドネイティブ開発に必要なツールやリソースが充実し、導入コストも低下している。

第三に、企業におけるイノベーションスピードへの要求の高まりが影響している。競争の激化する市場において、新製品や新サービスをいち早く市場に投入することは企業の存続に直結する課題となっている。クラウドネイティブアプリケーションは、マイクロサービスとCI/CDによって開発とリリースのサイクルを大幅に短縮することができるため、企業のイノベーションを加速させる強力な手段として注目されている。

第四に、コスト削減へのニーズも市場成長をけん引している。従来のオンプレミス型システムでは、サーバーなどのITインフラを事前に導入するため、大きな初期投資が必要であった。また、業務量の変動に応じてインフラを調整することが難しく、過剰なリソース投資による無駄が発生しがちであった。一方、クラウドネイティブアプリケーションは従量課金制のクラウドサービスと組み合わせて利用することで、実際に使用したリソース分だけ費用を支払うことができ、運用コストを大幅に削減することが可能となる。さらに、システムの運用管理を自動化することで、人件費の削減にも貢献する。

市場セグメントの詳細

クラウドネイティブアプリケーション市場は、デプロイメント別、企業規模別、エンドユーザー別に細分化することができる。各セグメントの特徴を整理することで、市場の構造と今後の成長の方向性をより明確に把握することができる。

デプロイメント別

デプロイメント別のセグメントは、パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドの3つに分類される。

現在、パブリッククラウドセグメントが市場シェアで首位を占めている。パブリッククラウドは初期投資が少なく、いつでも必要なリソースを迅速に確保できるため、特に中小企業から高い支持を受けている。また、大手クラウド事業者が提供する多様なサービスを活用することで、高度な機能を持つクラウドネイティブアプリケーションを低コストで構築することができる。

一方、ハイブリッドクラウドセグメントは今後最も高い成長率を記録すると予測される。金融機関や医療機関、政府機関などは、顧客の個人情報や機密情報を扱うため、データの安全性と規制遵守が最優先される。これらの事業者は、機密データをプライベートクラウドで管理し、それ以外の業務をパブリッククラウドで実施するハイブリッドクラウド環境を選択するケースが増加している。クラウドネイティブアプリケーションは、パブリッククラウドとプライベートクラウドの両方で柔軟にデプロイすることができるため、ハイブリッドクラウド環境の普及とともに需要が拡大すると見込まれる。

プライベートクラウドセグメントは、高度なセキュリティや独自のシステムとの統合を必要とする大企業や規制の厳しい業界から定常的な需要を獲得している。

企業規模別

企業規模別のセグメントは、大企業と中小企業(SMEs)に分類される。

過去には、大企業がクラウドネイティブアプリケーションの導入を主導していた。大企業は専門の技術スタッフを擁し、多額の投資を行うことができるため、早期からDXを推進し、クラウドネイティブ技術を導入してきた。しかし近年、中小企業セグメントの成長率が加速している。大手クラウド事業者が中小企業向けの低コストなクラウドネイティブソリューションを提供するようになり、また、導入支援サービスも充実したことで、中小企業でもクラウドネイティブアプリケーションの導入が現実的になった。中小企業にとって、クラウドネイティブアプリケーションは大企業と同等のITインフラを低コストで構築し、競争力を高めるための重要な手段となっている。

エンドユーザー別

エンドユーザー別のセグメントは、金融・保険業(BFSI)、政府機関、医療業、製造業、小売業、IT・通信業、その他に分類される。

中でも、IT・通信業はクラウドネイティブアプリケーションの需要が高い業界の1つである。5Gネットワークの普及に伴い、通信事業者はネットワーク機能をクラウド化するネットワークファンクション仮想化(NFV)やエッジコンピューティングを推進しており、クラウドネイティブ技術はこれらの取り組みに不可欠なものとなっている。

また、金融・保険業も重要なエンドユーザーとして位置づけられる。同業界は規制が非常に厳しいうえに、顧客のニーズが多様化し、モバイルバンキングやデジタル保険などの新しいサービスへの需要が高まっている。クラウドネイティブアプリケーションは、規制遵守を確保しながら新しいサービスを迅速に提供することを可能にするため、金融機関から高い評価を受けている。

製造業では、インダストリー4.0の推進に伴い、IoTセンサーから収集される大量のデータを分析し、予知保全や供給網最適化を行うためにクラウドネイティブアプリケーションが活用されている。小売業では、繁忙期のトラフィック増加への対応や顧客の購買履歴に基づいた個別推奨サービスの提供などにクラウドネイティブアプリケーションが活用されている。医療業では、患者データの管理や遠隔医療サービスの提供、AIを活用した診断支援システムの構築などにクラウドネイティブ技術が導入されている。

地域別の市場動向

地域別に見ると、現在は北米地域がクラウドネイティブアプリケーション市場で最大のシェアを占めている。北米地域にはAWS、Microsoft Azure、GCPといった大手クラウド事業者の本社が集まっており、技術開発が活発に行われている。また、同地域の企業はDXへの意識が高く、早期からクラウドネイティブ技術を導入してきたことも市場が成熟している要因である。

今後最も高い成長率を記録すると予測されるのはアジア太平洋地域である。中国、インド、日本を中心に、経済の発展とともに企業のDXが加速しており、クラウドサービスの需要が急増している。また、各国政府がデジタル政府の構築や産業のデジタル化を推進するための政策を実施していることも、市場の成長を後押ししている。例えば、日本ではデジタル庁を設置して行政手続きのデジタル化を推進するとともに、中小企業のDXを支援する事業を展開しており、クラウドネイティブアプリケーションの需要拡大につながっている。

欧州地域は、GDPR(一般データ保護規則)などの厳格なデータ保護規制が存在するため、プライベートクラウドやハイブリッドクラウド上でのクラウドネイティブアプリケーションの需要が高い。また、欧州連合が推進するグリーンデジタル戦略の影響で、エネルギー効率の高いクラウドネイティブアプリケーションへの関心も高まっている。

市場が直面する課題

クラウドネイティブアプリケーション市場は高い成長を続ける見通しだが、いくつかの課題も存在する。最も大きな課題の1つは、クラウドネイティブ技術に精通した人材の不足である。マイクロサービス、Kubernetes、CI/CDなどの技術は比較的新しいため、十分な経験を持つエンジニアやシステム管理者の供給が需要に追いついていない。特に中小企業は、専門人材を確保することが難しく、クラウドネイティブアプリケーションの導入や運用に苦労しているケースが少なくない。

もう1つの課題は、レガシーシステムとの統合である。多くの企業は長年にわたって使用してきたオンプレミス型のレガシーシステムを依然として運用しており、これらのシステムとクラウドネイティブアプリケーションを連携させる必要がある。レガシーシステムは古い技術規格に基づいて構築されていることが多く、クラウドネイティブアプリケーションとの統合には時間と費用がかかる。また、統合時にデータの安全性やシステムの安定性を確保することも難しい課題となっている。

さらに、セキュリティへの懸念も市場の成長を妨げる要因の1つである。クラウドネイティブアプリケーションは分散型のアーキテクチャを採用しているため、従来の集中型システムとは異なるアプローチでセキュリティ対策を行う必要がある。マイクロサービス間の通信の安全性や、コンテナの脆弱性への対応など、新たなセキュリティリスクが発生しており、これらのリスクへの対応が企業の導入をためらう要因となっている。

今後の市場トレンド

クラウドネイティブアプリケーション市場の今後のトレンドとして、まず生成AIとの統合が挙げられる。生成AIは、クラウドネイティブアプリケーションの開発プロセスを大幅に自動化することができる。例えば、生成AIを活用してコードを自動生成したり、テストケースを作成したり、システムのログを分析して異常を検知したりすることが可能となる。今後、生成AIとクラウドネイティブ技術の融合が進み、開発効率とシステムの安定性がさらに向上すると予測される。

次に、サーバーレスアーキテクチャの普及が加速することも予想される。サーバーレスアーキテクチャは、クラウド事業者がサーバーの管理を全て代行してくれるため、企業はアプリケーションの開発に専念することができる。クラウドネイティブの概念の延長線上にあるサーバーレスは、運用コストの削減と開発スピードの向上に貢献するため、今後ますます需要が拡大すると見込まれる。

また、エッジコンピューティングとクラウドネイティブ技術の融合も注目される。エッジコンピューティングは、データを生成する現場に近い場所で処理するため、低遅延かつ高い応答性が求められるIoTや自動運転、スマートシティなどの分野で重要な技術となっている。クラウドネイティブアプリケーションは、エッジデバイスからクラウドまで一貫したアーキテクチャでデプロイすることができるため、エッジコンピューティングの普及とともに需要が拡大すると予測される。

さらに、持続可能性(ESG)への関心の高まりから、エネルギー効率の高いクラウドネイティブアプリケーションへの需要が高まることも予想される。クラウドネイティブアプリケーションはリソースを最適化して使用するため、従来のシステムに比べてエネルギー消費量を大幅に削減することができる。企業がカーボンニュートラルを目指す中で、クラウドネイティブアプリケーションはESG目標を達成するための重要な手段として活用されるようになる。

まとめ

クラウドネイティブアプリケーション市場は、企業のDX加速や技術の普及によって、2025年から2032年にかけて年平均23.6%の高い成長率で拡大する見通しである。クラウドネイティブアプリケーションは、従来のアプリケーションに比べて柔軟性、スケーラビリティ、開発効率に優れており、多くの業種で活用が進んでいる。

市場はデプロイメント別、企業規模別、エンドユーザー別に多様に細分化されており、ハイブリッドクラウドや中小企業セグメント、アジア太平洋地域が今後の成長の牽引役となると予測される。一方で、専門人材の不足やレガシーシステムとの統合、セキュリティ対策などの課題も存在するが、技術の進化や支援サービスの充実によってこれらの課題は徐々に解決されていくと考えられる。

今後は生成AIやサーバーレスアーキテクチャ、エッジコンピューティングとの融合が進み、クラウドネイティブアプリケーションの可能性はさらに広がると予想される。企業にとって、クラウドネイティブ技術を積極的に活用することは、市場の変化に柔軟に対応し、競争力を維持・強化するために不可欠な戦略となるだろう。

出典: https://www.fortunebusinessinsights.com/cloud-native-application-market-109420

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